2012年4月12日木曜日

図録▽主要国の自殺率長期推移(1901〜)


 主要国の自殺率(人口10万人当たりの自殺数)について、20世紀初頭からの長期推移をグラフにした。データは厚生省資料とOECD.Stat(オンラインデータベース)による。

 対象国は、日本、韓国、オーストラリア、米国、カナダ、フランス、ドイツ(西ドイツ)、イタリア、英国、ハンガリー、スウェーデン、ロシアの12カ国である。なお、以下で世界一とはこの12カ国中である。

1.日本の自殺率の長期推移

 日本の自殺率は1936年までは20人前後で緩やかな上昇傾向にあった。1937年の廬溝橋事件以降の日中戦争、そして太平洋戦争の時期には、急速に自殺率は低下し、戦前戦後を通じ最低レベルとなった。国家総動員法(1938年制定)下で自殺どころでなかったとも考えられる。

 � ��戦後、高度成長が本格化するまで日本の自殺率は25人と世界一となった。社会保障が整備される以前であることから高齢者の自殺率が高かったことと戦後の価値観の大きな転換の中で若者の自殺率が急増したことが原因である(図録2760参照)。1958年の自殺率25.7人は過去最高の値である。その後の高度経済成長の中で、1959年国民健康保険法施行、1961年国民皆年金などの社会保障制度の充実や1960年所得倍増計画に代表される経済成長目標の国民的普及により、自殺率は、15人前後への低下した。国民全体で明るい夢を抱いていた時代だったといえよう。


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 その後、1973年のオイルショック前後から自殺率は上昇に転じた。余り注目されなかったが、1983年の景気後退は自殺率の急増(前年の17.5人から21.0人へ)を招いた(図録4400、図録2740-1参照)。現在から振り返るとこれは1998年の自殺率急増の先駆だったといえる。自殺率が高い時期がしばらく続いたが、1990年前後のバブル景気の中で、自殺率は再度低下した。

 1997年秋の三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券と立て続けの大型金融破綻事件がきっかけとなり、98年の5月にかけて失業者が急増し、自殺率も、97年から98年にかけて18.8人から25.4人へと急増した。このときは自殺者数も前年の2万3千人台から、一気に、3万1千人台へと急増したこともあっ� �、社会的に大きく注目を浴びた(図録2740参照)。

2.国際比較(単年次の99カ国比較は図録2770参照)


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 国際比較をすると、自殺率世界一の国も時代によって変遷している点が、まず、目立っている。第1次世界大戦まではドイツ、フランスが最も自殺率が高く、第1次と第2次の世界大戦のいわゆる「戦間期」には、ドイツが断然一位の国であった。ドイツの1次大戦後に成立したワイマール体制は社民党主導といいながら帝政派、右翼、旧軍、官僚組織を存続させ、ベルサイユ体制による国際圧力とあいまって、急速に右翼勢力の台頭を許し、1929年大恐慌による経済破局を経て、1933年にヒットラー内閣の成立に至った。ワイマール体制が社会の安定に失敗していたことはこの間の自殺率の急騰に如実にあらわれているといえよう。

 終戦� �後から日本の高度成長期が本格化する以前には、日本が自殺率世界一となり、その後、日本に代わって、1960年代〜80年代までハンガリーが世界一の自殺率を長く継続した(その間、スウェーデンが欧米先進国の中では第1位となった時期もある)。

 もとから自殺率が低くはなかったロシアであるが、1991年のソ連崩壊後は、ロシアの自殺率が急増し、断然世界一となった。

 米国、英国、カナダ、オーストラリアといったプロテスタント国、及びイタリアは、以上の国々と比較すると、比較的低い自殺率水準で推移している。米国は自殺率が低い反面、ほとんど自殺行為ともいうべき極端な肥満によって多くの人間が命を落としている状況については、図録8800参照のこと。


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 日本の高度成長期には自殺率が急減したのと対照的にドイツやスウェーデンでは1960年代〜70年代に自殺率が上昇している。スウェーデンでは戦後、1970年まで自殺率が上昇したが、これは、高度経済成長を実現するため女性の就業を急拡大させたため女性を家庭から奪われ、「家庭の崩壊」が進んだためといわれる(同時期、離婚率、犯罪率も上昇)。その後、家庭機能の劣化を国家の福祉政策により埋めるスウェーデン・モデルが確立し、再度、自殺率は減少していったとされる(北岡孝義「スウェーデンはなぜ強いのか」 (2010年、PHP新書) 、図録1505参照)。


 ヨーロッパ主要国、ドイツやスウェーデンの自殺率が、その後、低下傾向を辿る中でフランスの値の相対的な高さが目立つようになっている。2009年9月には、フランステレコムで前年2月以降の自殺者の数は23人に上ったことが大きなニュースとなり、パリにあるオフィスの顧客サービス部署の4階から飛び降りて自殺した23人目のステファニーさんが自殺の理由として父親宛のメールで「部署の再編成が許せない。新たな上司のもとで働くくらいなら死んだほうがまし」と述べたことが報じられた(AFPBB News 2009.9.19)。英エコノミスト誌も、驚くべきは同社の自殺率は国全体と同じ水準であり、労働時間が短く労働者保護も手厚いフランスで何故高い自殺率?やはり職場の不安定、人間関係の崩壊が原因かと論評している(October 10th 2009)。(フランスの労働時間は図録3100、フランスのメンタルヘルスやストレスが深刻な状況は図録2140、3274参照)

 韓国の自殺率は低い水準であったが、1990年代に上昇しはじめた。特にアジア通貨危機後の1998年に急増し、その後、落ち着いたが、最近、再度、上昇が続き、ついに日本を抜き、そして、2009年にはOECD諸国最高値を示すこととなった。合計特殊出生率の急落とともに社会の変化が急であることがうかがわれる(合計特殊出生率の急落は図録1550参照。2010年の俳優パク・ヨンハの自殺を巡るコメントは図録2770参照)。


 各国の自殺率はその国固有の事情で変動を繰り返しているが、ほとんどの国でシンクロナイズした減少傾向が見られる時期がある。すなわち1914年〜18年の第1次世界大戦、及び1939年〜45年の第2次世界大戦の時期である。世界大戦が各国社会に対して共通の大きな影響を及ぼしていたことが如実にうかがわれるデータである。

(2005年10月29日収録、2006年9月26日日本・韓国更新、2009年11月11日更新、2011年8月26日更新)



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